治療薬【まとめ】
第一選択薬は、長時間作用型のベンゾジアゼピン系薬剤
(例) ジアゼパム 1回 2~10mg、1日3回 投与で開始。
高齢者では、短時間作用型のベンゾジアゼピン系薬剤を使用
(例) ロラゼパム 1回 0.25~1.6mg、1日3回 投与で開始。
高齢者では、過鎮静回避のため短時間作用型が使用されます。
予防目的や重度の肝障害患者ではロラゼパムが使用される場合が多いです。
アルコール離脱症候群とは
「アルコール離脱症候群(AWS;Alcohol withdrawal syndrome)」は、習慣的飲酒者が突然断酒したり飲酒量を減らしたりした時に生じる臨床症状全般を指します。
初期症状は、飲酒中断後3~6時間程度で出現するといわれており、軽度の不安、不眠、手指振戦などが典型的です。
一部の患者では飲酒中断後48時間以内に「アルコールてんかん」と呼ばれるけいれん発作(全般性強直間代発作)が出現します。通常の「てんかん」とは異なり、飲酒歴を見落とすと誤診されることがあるため注意が必要です。
重症例では、72時間以内に著明な交感神経興奮症状が出現し、頻脈、血圧上昇、体温上昇、発汗、全身の筋緊張と粗大な手指振戦、嘔気、嘔吐などを呈します。
最も重症な離脱症状は「振戦せん妄」とよばれる病態であり、上述した症状に加えて、精神運動興奮や失見当識、一過性の幻視、幻聴、錯視を伴います。実際には存在しないはずの小動物や虫・小人が見えたり、いないはずの家族の声が聞こえたりして、切迫した不安興奮状態や易怒性がみられます。振戦せん妄は断酒後1週間を過ぎても続くことがあり、長い例では1か月近く遷延することもあります。適切な処置を行わないと致死的となる可能性があるため注意が必要です。
予測スコア・重症度評価
PAWSS
『PAWSS』は、Prediction of Alcohol Withdrawal Severity Scaleの頭文字をとったもので、アルコール離脱の発症リスクを予測するための指標です。10項目中4項目以上に該当(PAWSS≧4点)するとアルコール離脱の発症リスクが高いとされます。
①30日以内に飲酒歴があるか?
②アルコール離脱の既往があるか?
③離脱けいれんの既往があるか?
④振戦せん妄の既往があるか?
⑤禁酒リハビリに参加したことがあるか?
⑥ブラックアウトを経験したことがあるか?
⑦90日間にアルコールとベンゾジアゼピン系やバルビツール系薬剤を併用したことがあるか?
⑧90日間にアルコールと何らかの乱用薬物を併用したことがあるか?
⑨診察時に血中アルコール濃度が陽性であるか?
⑩交感神経の興奮があるか?(心拍数≧120回/分,振戦,発汗,興奮,嘔気 等)
<PAWSSが計算できるサイト>
https://www.mdcalc.com/calc/10102/prediction-alcohol-withdrawal-severity-scale
CIWA-Ar
『CIWA-Ar』は、Clinical Institute Withdrawal Assessment of Alcohol Scale, revisedの頭文字をとったもので、アルコール離脱症状の重症度の評価スケールです。【嘔気・嘔吐】【振戦】【発汗】【不安】【興奮】【触覚障害】【聴覚障害】【視覚障害】【頭痛】【見当識障害】の10項目の症状の程度をスコア化し重症度を評価します。各項目0~7点(※見当識障害は0~4点)の計67点で、【0~9点:軽度】【10~15点:中等度】【16点以上:重度】と評価します。8点以上でベンゾジアゼピン系薬剤の投与が推奨されます。
<CIWA-Arが計算できるサイト>
https://www.msdmanuals.com/professional/multimedia/clinical-calculator/ciwa-ar-clinical-institute-withdrawal-assessment-for-alcohol-scale
なぜベンゾジアゼピン系を使うのか?
アルコールは、脳内で神経系に抑制的に作用するGABA受容体を刺激しますが、慢性的なアルコール摂取はGABA受容体の感受性を低下(down-regulation)させます。この状態で断酒すると、GABA受容体による神経抑制作用が低下し、同時に神経系を興奮させる作用をもつグルタミン酸に対する受容体が活性化します。その結果、中枢神経や自律神経系の過剰な興奮状態をもたらします。
ベンゾジアゼピン系薬剤の投与は、アルコールのGABA増強効果を代行することにより、離脱症状の改善につながると考えられています。
離脱症状に対する薬物治療の適応や減量に関しては、離脱症状の程度と薬剤の効果を繰り返し観察しながら適切な使用量を決定します。その際、CIWA-Arのような離脱症状の重症度評価スケールを使うことも推奨されています。離脱症状が軽度な場合(CIWA-Arが8点未満)など不要なケースでは、薬物治療は行いません。
離脱けいれん発作を起こした場合やその既往のある場合には、他の離脱症状が軽度であってもベンゾジアゼピン系薬剤を使用します。
妊婦についても、離脱症状の治療が必要な場合にはベンゾジアゼピン系薬剤の使用が推奨されます。
栄養状態に応じてウェルニッケ・コルサコフ症候群の予防(チアミン投与)なども忘れずに!
記事執筆のきっかけ
ある日の処方。
『ロラゼパム錠0.5mg 9錠 分3 2日分』
⇒ 量多いなぁ・・・持参薬かな??
通常、成人1日ロラゼパムとして1〜3mgを2〜3回に分けて経口投与する。
ワイパックス®添付文書より
なお、年齢・症状により適宜増減する。
カルテを確認すると新規処方!アルコール性肝硬変の既往あり。
医師のカルテには離脱予防(?)で開始との記載。…何の??
そこからいろいろ調べてアルコール離脱予防だとわかりました!
消化器に行ってる薬剤師からしたら常識なのかな…?勉強になりました!
【参考文献】
・新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインに基づいたアルコール依存症の診断治療の手引き【第1版】
・e-ヘルスネット – 厚生労働省
・今日の精神疾患治療指針第2版
・MSDマニュアル プロフェッショナル版
・Nature. 1997 Sep 25;389(6649):385-9.
・J Pharmacol Exp Ther. 1988 Jul;246(1):158-64.
・Ann N Y Acad Sci. 1992 Jun 28;654:52-60.
・Alcohol. 2014 Jun;48(4):375-90.
・Br J Addict. 1989 Nov;84(11):1353-7.
・Arch Intern Med. 2002 May 27;162(10):1117-21.